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和の場所と技術があふれる場所。

印刷博物館へ行ってきました!<展示室、印刷工房編>

印刷博物館は凸版印刷株式会社が運営している「企業博物館」です。東京都文京区、江戸川橋駅と飯田橋駅のちょうどあいだぐらい神田川沿いにあります。企業博物館とありますが、企業理念など会社の説明ではなく、あくまで印刷にまつわる情報を広く知ってもらうための施設となっています。今回は学芸員の宇田川さんに案内していただきました。

 

早速、地下にある展示ゾーンに突入です。

 

 

プロローグ展示ゾーンです。
ビジュアルコミュニケーションについて感覚的に知ってもらうエリアです。回廊になっていて、「情報伝達」に関して知ることができます。壁画、甲骨文字、パピルスなど、印刷よりもっと前の情報伝達の仕方「刻む」や「書く」からスタートします。

 

古いものから現代まで、日本だけでなく海外のものも多数展示されていました。中でも詳しく説明していただいた日本の「百万塔陀羅尼(ひゃくまんとうだらに)」はつくられた年代がわかる『世界最古の印刷物』だそうです!

 

 

「陀羅尼」とは仏教における呪文の一種だそうで、聞こえは少し怖いような気もしますが、約1300年前、奈良時代に称徳天皇が仏教の力で政治をしようとした時代背景があります。紙に印刷されたものが丸められて塔の中に収められて保管されたそうです。

 

次に42行聖書。

 

 

グーテンベルクによる西洋初の活版印刷の聖書で、42行組みのページが多いことからそう呼ばれているそうです。きっちり整列した文字がずらりと。綺麗でした。お経や聖典は、学ぶ人々から参考書などが求められたり、護符が刷られたりと祈りや信仰・宗教は印刷と関わりが深いそうです。

 

そしてこのエリアで個人的に気に入ったのが、明治~大正時代に出てきた現代の広告にあたる「引札(ひきふだ)」というものです。

 

 

カラフルでデザイン性が高く、今見てもカッコいいと思えます。この頃から「いかにして集客するか」と販促について考えていたんですね。ちなみに絵や文字が入り組んだ自由なレイアウトは、組版が作れないので一枚板を彫って版にして印刷していたそうです。ミスをすると「埋め木」と言って削ってしまった部分に木を詰めて平坦にしてから彫り直すそうです。

 

さらに展示は続きまして、後半は現代的になります。印刷博物館なのにパソコンが展示されていて「ん?」と思うかもしれませんが、ディスプレイのカラーフィルタなどに印刷の技術が使われているとのこと。印刷そのものではないですが、デジタルの中でも印刷技術が生かされているのですね。

 

 

そして壁の展示を見終わって最後に出てくるのが「木製手引き印刷機(復元)」です。先ほどちょっと出てきましたが、グーテンベルクという人が、ワインを作るためのぶどう搾り機からヒントを得て発明した活版印刷機です。ここから印刷技術が大きく発達していくわけです。

 

 

ちなみにこちらのゾーン、特に展示物に対してキャプションが書かれたプレートなどはありません。本当に「かんじる(感覚)」ゾーンとなっております。ボリューム満点のプロローグです。

 

さて、木製手引き印刷機を通り過ぎると、本展示室に入ります。ここでは、より詳しく説明をしていただいたアイテムや人物について触れていこうと思います。

 

まず、前述の「百万塔陀羅尼」について。

 

 

つくられた年代がわかる世界最古の印刷物なのですが、その印刷に使われた版が木製なのか銅製なのかは版が見つからないため未だわからずだそうです。見つかったら大発見です。ちなみに「百万塔」というだけあって100万基つくったとされるそうなのですが、戦乱などで消滅したと思われ、今は法隆寺に4万数千基ほど(塔身部)が残っているとのことです。

 

次は人物の紹介です。
日本には「日本の近代活版印刷の父」とも呼ばれる、本木昌造という人がいます。日本における近代活版印刷の先駆者です。長崎・出島を通じて海外の情報は入ってきていたので、海外の本を日本語に訳して、出版していたようです。杉田玄白らが著した『解体新書』とそのベースになった『ターヘル・アナトミア』を見比べると、『ターヘル・アナトミア』は挿絵が銅版で刷られていて、繊細な線が彫られ、影など濃淡の表現がありましたが、『解体新書』は木版で平面的でシンプルな絵となっていました。同じ印刷物でも版の素材が違うと細かな部分で印刷の差が出るんですね。

 

続きまして「錦絵」。
色ごとに版を作って、色を重ねていく多色刷りの浮世絵版画で、絵師、彫師、摺師と役割を分担して1枚の絵を作っていたそうです。1枚の絵に対して版がいくつもあると色がズレてしまいそうですが、版には「見当」という印がついており、そこに下絵を合わせてから彫っていたので大丈夫だそう。現代の「見当違い」などの言葉はこれが語源といわれています。

 

 

ちなみにグラデーションなどの表現は、色の乗せ方や摺師の力加減で変わるらしく、同じ作品でも濃淡の差が出るそう。初めはグラデーションが施されたり綺麗だけど、後刷はグラデーションがなく、ベタ刷りになっているなんてことで、初版かどうかという判断までできる場合もあるとか。

 

 

総合展示の最後の方に出てくるのはギネス世界記録™「最も小さい印刷本」に認定された、凸版印刷さんがつくった豆本のマイクロブック『四季の草花』です。豆本と言いながら、0.74×0.75mmという豆よりはるかに小さな本で、繊細な記録です。ルーペで覗き込んでみましたが、そのサイズの中に書かれた文字もちゃんと読めました。印刷ってここまで繊細なことができるんだなあと。吐息で吹き飛んで見失うサイズなので、データよりよっぽどセキュリティが高いのではと思いました。

 

そして出口付近にはガラスに囲われた部屋、印刷工房「印刷の家」があります。

 

 

実際に活版印刷を体験できる工房です。
今回はセットされた組版でしおりの印刷を体験させてもらいました。

 

 

まず紙を所定の位置に置きます。レバーを押すとその動きに合わせてローラーがインクのついた円盤の方へ上がり、円盤の上を転がるとまずローラーにインクがのる仕組みです。レバーを戻すとローラーが下がり、版の上をローラーが転がって今度はローラーから版にインクをのせます。この動きを2~3度繰り返し、しっかり版面にインクをつけます。そして最後にレバーをもう一度ギュッと最後まで押し込むと、版面に紙が圧着して印刷されるという仕組み。仕組みとしては先日ご紹介した、活版TOKYOでの印刷機と同じです。やはり無駄のない動きです。

 

その後、活字が並ぶ「馬棚」も見学させていただきました。

 


 

活字は鉛製です。馬棚から必要な文字を持って来て、組んで版を作るんですね。職人さんは40分で800字を並べるそう。3秒1文字ペースです。速い。

 

棚での活字の並べ方にもルールがあります。よく使う「人」「子」などの活字は「大出張」と呼び、取りやすい目線の高さにありました。1文字ずつの数も多いです。次によく使われるものを「小出張」、次は「第二出張」と呼んでいるとのこと。表現がかわいいですね。ひらがなは「いろは順」で並んでいて、漢字まで含めてだいたい1万種くらいは準備しているそう。もちろん明朝体、ゴシック体、欧文もいろんなフォントで準備されています。頻繁に使わない漢字は「外字」と呼んでいて、部首ごとに並べて管理しているそうです。「♨︎」や「√」などの記号もありました。

 

 

そして、小さい活字の型をどういう風に作るかというと、「ベントン彫刻機」という機械を使うそうです。仕組みは原版をなぞると彫刻機に縮小されて伝わり活字をつくる元となる型「母型」ができあがります。言葉では説明しづらいのですが動きをみると一目瞭然。ぜひ印刷博物館へ!

 

 

ちなみに印刷工房では、曜日で体験できるコースが変わるそうですので、
詳しくはこちらをチェックしてみください

 

 

ということで、こちらの印刷博物館、個人的には何度かプライベートでも訪れたことがあったのですが、こうしていろいろと説明を聞きながら見ると、改めていろんな発見があり、新たな知識も得ることができてとても楽しい時間となりました。印刷やデザインにまつわる仕事をしていなくても、歴史が好きな人であったり、クラフトワークが好きな人であったり、多くの人が楽しめる施設となっていますので、ぜひ一度は足を運んで見て欲しいなぁと思いました。

 

今年20周年を迎えリニューアル期間に入る印刷博物館。今年の6月より全面開館するとのことです。きっと充実したコンテンツになると思いますので、リニューアル後も楽しみです。真面目で気さくな宇田川さん、丁寧な説明をありがとうございました(^^)

 

 

印刷博物館

所在地 東京都文京区水道1丁目3番3号 トッパン小石川ビル

開館時間 10時~18時(入場は17時30分まで)

休館日 毎週月曜日(ただし祝日の場合は翌日)、年末年始、展示替え期間

※2020年リニューアルオープンに伴う休室のお知らせは下記を参照ください。

2020年6月5日(金)まで地下1階展示室、印刷工房は休室となっております。

http://www.printing-museum.org/close/

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