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和の場所と技術があふれる場所。

東京五美術大学 連合卒業・修了制作展

 

「いいなあ。白い壁と色干渉の少ない照明、広いカッターマットを毎日自由に使えることはもうこれ以降ないよ」と、教授たちが羨ましそうにしていたのをよく覚えています。

 

卒業制作の最大の魅力は、時間や環境、スポンサーに左右されることがなく、自由に作品を作れるところにあります。五美大展にデザイン科作品はなく、美術科作品(日本画、油絵、版画、彫刻)のみ、いわゆるファインアートという商業的な目的を持たない純粋芸術が展示されています。つまり、世の評価云々が干渉せずにのびのびと思うがままに(借し会場なのである程度の制約はありますが)製作した作品を見られる希少な機会なのです。

 

 

六本木にある国立新美術館は高い天井と、明るい展示スペースが特徴の駅直結の現代的な美術館です。国内のみならず世界の人気の現代作家が多く展示をするため、館内は常に活気に満ちていて、学生にとって、この環境で自分の作品を展示することは大変な名誉であるといっても過言ではありません。
ここでは五つの大学の芸術学科卒業生のほとんどの作品が展示されていますので、各大学にご協力いただき、何名かからお話を伺いました。

 

 

まず、2階エレベーター手前が入り口の東京造形大学から。

 

東京造形大学といえば桑沢デザイン研究所から派生したバウハウス流の校風ということで、勝手なイメージではありますが、プロダクトの方向性に長けている印象でした。またそういった機能美的な思想が絵画や彫刻作品にどのように反映されているのか非常に楽しみなところであります。

 

入り口から入ってまず大きく目を引く絵画作品、こちらの作者、長嶺 高文(ナガミネ タカフミ)さんにお話を伺いました。

 


 

『SPIRAL』

欲望をキーワードにAIの発達に対して感じることをキャンバスにのせている作品です。
ゴーギャンの『我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか』からタイトルのインスピレーションを受け、『SPIRAL』と名付けたそうです。葛藤の中で描かれた作品からは大きな力のようなものを感じることができました。

 

ギャラリー内をじっくりと作品を見ながら巡っているとひときわ背の高い作品に出会いました。こちらの作者、岩森 咲季(イワモリ サキ)さんにお話を伺いました。

 


 

 『ナヤミビト』
自分の中にいる遠い記憶の人物をモチーフに制作されていて、それぞれ作品によって人の形が曖昧だったりするのは、記憶の海の底からパーツを手探りで探しながら組み上げているからだそう。また、鉄と人との文化的にも自然的にも切り離すことのできない繋がりを感じたため、鉄という素材を選んだようです。鉄を雨ざらしにしたり、自然な劣化をさせてつくった肌と溶接した関節からは風が吹き抜けていくような不思議な感覚を覚えました。

 

 

続いて隣のフロア日本大学芸術学部の展示へ。

 

日本大学芸術学部は日本大学に属する学部のひとつで、マスコミ・放送・芸能・写真・映画に人材を多く輩出していて、演出するという点で秀でている印象です。

 

こちらでは絵画、版画、彫刻それぞれの専攻の学生さんにお話を聞くことができました。

最初に大きなカンバスの作品、寺脇 早也加(テラワキ サヤカ)さんから

 


 

 『1997』
大きなキャンバスには1997年生まれの半生が描かれていて、作者個人の集大成ではなく、1997年世代みんなの集大成だそうです。自身、1996年生まれなのですが、絵の中には肌で感じてきた懐かしいものがたくさん描かれていて、私たちの世代の人は思わず見入ってしまうのではないでしょうか。

 

次に、連作の版画作品、東尾 文華(ヒガシオ アヤカ)さん

 


 

  『儚き心で』
女性をモチーフにすることが多いとの文華さん。女性の内面や心情を周りに問いかけるような作品を制作したいと感じ、こちらの作品を作られたそうです。版画とは一色一版必要になるのでこちらを作ったときにはそれぞれ6色3枚作品なので18枚版を彫りきり、腱鞘炎に。病院に通いながら制作されたそうです。

 

最後に蝋で作られた珍しい彫刻作品、佐藤 澄霞(サトウ スミカ)さん

 


 

 『One is all』
何重にもかさなる溶け出した蝋の層から顔をのぞかせる穴あきマスクは、匿名性の強さと弱さを表現しており、周りを覆う蝋が溶け出すことでその正体を暴かれるというコンセプトの作品。ネガティブさもポジティブさも同体であることが力強く伝わります。こちらの作品を手がけた澄霞さんは蝋を溶かしながら作品を作り上げるライブパフォーマンスなど、これからも蝋を使ったアーティスト活動をしてゆきたいそうです。

 

 

今回の合同展示で館内中央にギャラリーを構える多摩美術大学、意欲的で自由な校風が特徴の美術大学です。こちらでは麻布をキャンバスに絵画を制作された、丸山 眞葉(マルヤマ マヨ)さんにお話を伺いました。

 


 

『断片/△▼』
断幕状にななめに展示されているのは光が絵を伝って流れていくようにする意図からで、作品の全体のコンセプトとして流れを意識しているそうです。上下の顔で時間、流水に浮かぶアヒルで水など、流れるものを描いていて、その場にいると涼しげな雰囲気を味わうことのできる作品でした。

 

 

フロア変わって1階、武蔵野美術大学の展示です。武蔵野美術大学といえば漫画『ハチミツとクローバー』の舞台であり、美大といえばムサビと認識している人も少なくないと思います。

 

フィギュアの造形師としても活躍されている、井上 雄仁(イノウエ カツヒト)さんにお話を伺いました。

 


 

『理想と現実』

肉体美というテーマを現代版の表現、フィギュアの塗装方法や材質を用いて今一度表現したいという信念から出来た作品です。また、髪や瞳をアクリルで塗装することによって、ドール作品とは差別化しつつ彫刻でもあり、フィギュアでもある作品に仕上げています。

 

 

最後に女子美術大学です。美術大学では珍しい女子校で、歴史が古く、女性の社会的、経済的自立をモットーとしています。また、私が昨年度まで在籍していた学校でもあります。

 

まずは幻想的な雰囲気を醸した絵画作品、児島 櫻子(コジマ サクラコ)さんにお話を伺います。

 


 

『一夜の夢』
実際に櫻子さんが見た夢をモチーフにしていて、描かれている少女は夢の中で強く印象に残った登場人物で、少女を覆う深い森林の暗闇から奥行きを感じられます。実際に手前の葉には絵に起伏をつけることができる画材を用いて、絵自体を半立体にしあげてあり、油絵のそれとはまた違いますが、厚みも感じられる作品です。

 

続いて、大きな連作、川窪 花野(カワクボ カノン)さん

 


 

『団地』
現代になって、思い出の残し方が変わったと感じたことから、花野さんがイギリスに留学した思い出を改めて絵として残したいと思い、そこでの思い出をスナップ的に切り取った作品です。思い描いていたイギリスと実際に訪れたイギリスの印象のギャップが描かれていて、現地の空気感がよく伝わる作品でした。

 

 

 

いかがだったでしょうか。

 

学生の製作といっても、この大きな会場に負い目を感じない堂々とした作品があふれていました。会場は様々なゲストが訪れ、学生作品をじっくりと鑑賞していました。いろいろな人が自身の気に入った作品に指をさして同行者と談笑している場面も見受けられ、学生の作品にかけた熱量がこうやってゆっくりと世に昇華されていくのだなと改めて感じることができました。

 

東京五美術大学 連合卒業・修了制作展は毎年2~3月に行われます。
普段あまり見ることのない学生のアート作品に触れることのできる貴重な機会ですので、是非足を運んでみてください。

 

 

最後になりましたが、取材のご協力ありがとうございました。

 

以下会場スナップです。

 








 

 

 

令和元年度 第43回 東京五美術大学 連合卒業・修了制作展
東京造形大学・日本大学芸術学部・武蔵野美術大学・多摩美術大学・女子美術大学
展示期間:2020年2月20日(木)~3月1日(日)
会場:国立新美術館

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